なぜあなたはデッドリフトというトレーニング種目を選択するのか?

・ここが特に鍛えられるから
・こんなパフォーマンスが向上するから
・他の種目よりもこんな点で優れているから
・実はこんな効果もあるから

 

理由は人によって違うと思いますが、皆さんはトレーニング種目を選択する時、なぜデッドリフトにしたのでしょうか?

 

自分の場合は「背中」を鍛えるのに一番効くと聞きましたし、BIG3の1つですし基本だろうと思い取り入れてました。

 

ただたまに腰が痛くなったり、どこに効いてるのか分からなくなったりと、疑問が残ったまま何となく続けていましたが。

 

自分と同じような感覚でデッドリフトを行っている方も多いと思います。
ですので、今回はこのデッドリフトという種目を現時点で考えられうるものに限り解説していこうと思います。

 

もちろんデッドリフトをケガをすることなく円滑に進めるためのコンディショニング面からのアプローチ方法も紹介していきます。

 

今後新たにこんな事実が報告されたなどの進展がありましたら随時更新していきます。
では少しずつ解説していきたいと思います。

 

1.鍛えられる代表的な筋肉

 

まずデッドリフトというトレーニング種目を選択する時、思い浮かべるのが「背中」の筋肉を鍛える為に行うというのが一般的な考えです。
背中の筋肉といっても数多くありますので、どの部分どの筋肉群が鍛えられるのでしょうか?

 

脊柱起立筋群

 

東京大学教授の石井直方先生著のトレーニング・メソッドによると、「脊柱起立筋群」を鍛えるにはデッドリフトが基本と書いてあります。(以下本文引用)

『デッドリフトの主動筋が大臀筋やハムストリングスになるため、それなりに重い負荷を使うのが普通。脊柱起立筋の役割としては、重たい荷重に耐えながらエキセントリックな力を発揮するということになりますが、これだけでもどんどん強くなっていくはずです。』

 

脊柱起立筋の働きに対しては、(以下本文引用)

『背中の真ん中を縦に走っている筋肉。非常に大きく、体の芯とも言える部分で、ここがしっかりしないと、そのまわりにある筋肉を十分に鍛えることもできません。メインの働きは、脊柱の姿勢をしっかり保つこと。また背中を後ろに反ったり、若干前屈・ひねり・横に曲げるという動きをつくる働きもあると考えられます。』

 

 

 

 

脊柱起立筋

 

背部の深層に位置する腸肋筋・最長筋・棘筋を総称して脊柱起立筋とよぶ

 

脊柱の屈曲、伸展、回旋の他、脊柱の正常な弯曲を保ち姿勢を保持する役割がある

 

広背筋

 

またデッドリフトは「広背筋」もよく使われるということで(以下本文引用)

『肩全体を後ろ側に引きつけて背中が曲がらないように広背筋(主に下部)をよく使います。広背筋は脊柱と上腕につながっていて、この筋肉がしっかり力を出すと肩を背骨のほうに寄せるような姿勢になり、脊柱と肩関節の距離が短くなる。背中を反って胸を張ろうとすると、必然的に広背筋も使うわけです。』

 

 

広背筋

 

人体で最も面積の大きな筋

 

肩関節の伸展、内転、内旋、ボートをこぐ動作など腕を後方あるいは下方に引く動きの主力筋

 

上半身に対しては脊柱の姿勢をしっかり保ちながら脊柱起立筋が荷重に耐えながらエキセントリックな力を発揮するということと、背中が曲がらないように胸を張ることで広背筋が使われるということ、の観点から背面にある数多くの筋肉が使われて鍛えれるトレーニング種目といっても良さそうです。

 

大殿筋・ハムストリングス

 

そして下半身においては臀部や大腿が、持ち上げる力の源になります。特にデッドリフトは「大殿筋」や「ハムストリングス」に効く種目で、石井教授も大殿筋とハムストリングスを鍛えるのにどうしても一種目だけ選ばなければならないならばデッドリフトを推薦すると仰っているので、下半身の後面側への効果の高さが伺えます。

 

大殿筋
臀部の大部分を占め、人体で最も粗大な最重量の筋
股関節の伸展、外旋、膝関節の伸展、階段を上る動作や座位からの起立動作で強く働く

 

ハムストリングス
大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋を併せてハムストリングス、膝関節の屈曲と股関節の伸展を行う
大腿二頭筋は膝関節屈曲時に下腿を外旋
半腱様筋、半膜様筋は膝関節屈曲時に下腿を内旋

 

2.期待される付随的な効果

 

直接的でないにしろ、デッドリフトを行うことによって得られる効果があります。スポーツ競技のパフォーマンスに繋がる身体的要素の面や、痛みやケガの回復や予防の面などです。

 

ジャンプ力向上

 

デッドリフトを行うことによって身体的パフォーマンスを向上させることも期待できます。特に「ジャンプ力」を向上させる効果が期待できるようです。

デッドリフトは膝伸屈筋のトルク能力を高め、垂直ジャンプの高さを増加させる(Thompson BJ-2015)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=25226322

 

腰痛予防

 

また、腰痛に対しても改善効果が期待できます。

リハビリ運動として利用するには、対象者がデッドリフト中の疼痛レベルが低い状態で十分な背筋力と持久力を持っていれば有効。(Berglund L-2015)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=25559899

 

トレーナーやセラピストがクライアントの方々にデッドリフトという種目を選択するときは、クライアントの目的に合わせての強度の調整、アライメント(姿勢)不良や可動域制限によるケガのリスクなどを考慮して処方する必要があります。

 

3.腰部伸展力との関連性

 

デッドリフトと腰部伸展筋力

 

腰椎を屈曲状態から伸長させるを腰部伸展するということであれば、デッドリフトを行えば腰部伸展力が増加するであろうと考えられるかと思いますが、そう単純なものではなさそうです。

Medxランバーエクステンションマシン

Medxランバーエクステンションマシンと比較してデッドリフトは腰椎伸長トルクを強化しないが、腰部伸展動作に特化したトレーニングを行うことでデッドリフト1RMが伸びる(Fisher J-2013)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=23867152

 

つまりデッドリフトは腰椎伸長トルク(腰部を伸展するという力)を強化しないが、腰部伸展動作に特化したトレーニング(バックエクステンションマシンのようなトレーニング)を行うことでデッドリフト1RMが伸びるとのことですので、

腰部伸展動作に特化したトレーニング→デッドリフト1RM↑
デッドリフト→腰部伸展力↑

 

腰部伸展する背筋力と、デッドリフトで鍛えられる背筋力は意味合いが異なるので、目的に応じて別個に考える必要があります。

 

スクワット・ヒップスラストと腰部伸展筋力

 

また余談ですが、代表的なトレーニング種目のスクワットやヒップスラストに関しても腰部伸展筋力との関連性について報告もあります。

 

 

 

スクワット

ヒップスラスト

腰部伸展エクササイズを行うことによってスクワットとヒップスラストの1RMを向上させることができるが、スクワットとヒップスラストを行うことで腰部伸展筋力の向上はみられない(Hammond A-2019)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6662562/

さらにパワーリフティングトレーニングが腰部伸展の調整にほとんど影響を与えないとの報告もあります(Androulakis-Korakakis P-2018)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29979273

 

ここまでみると腰部伸展エクササイズで得られる効果は特異的であって、スポーツパフォーマンス向上に有益であろうと考えられますので、デッドリフトだけではなくスクワットやヒップスラストでは代用できない効果が望めることをトレーナーやセラピストは認識しておくべきです。逆に言えば『デッドリフトさえやっておけば腰回り鍛えられるよ大丈夫』というような思考に至る前に、腰部伸展エクササイズとの関連性を考え、種目選択を慎重に考慮してみてはいかがでしょうか。

 

4.他の股関節伸展種目との比較

 

同じ股関節伸展動作でも種目の違いによって、使われる筋肉の活動量や関節運動が異なります。例えばデッドリフトと並びスクワットやヒップスラストも股関節伸展種目と言えますので、デッドリフトと比較してスクワットやヒップスラストがどこの筋肉がより使われるのか、どの関節運動が大きいのか、を明確にしていけば、目的に応じて効率的に種目選択しやすいのではないでしょうか。

 

スクワットとの比較

デッドリフト中のより大きな股関節伸筋関節運動は、腰部伸筋を対象とする人がバックスクワットと比較してデッドリフトからより大きな利益をもたらす可能性がある。ただし、バックスクワット時のより大きな膝伸筋関節運動は、デッドリフトと比較して、膝伸筋を対象とする人がバックスクワットを組み込むことでメリットがあることを示唆している。(Choe KH-2018)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=30335723

股関節伸筋関節運動及び腰部伸筋活動量:デッドリフト>スクワット
膝関節伸筋関節運動及び膝関節伸筋活動量:スクワット>デッドリフト

ということになります。

 

ただし例外として報告があります。

デッドリフトと比較して、フロントスクワット時の大臀筋の筋肉活動が大きい。フロントスクワットを処方して大臀筋のより大きな運動効果が望める。(Korak JA-2018)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29465608

大殿筋(主要股関節伸筋)活動量:デッドリフト>フロントスクワット

 

同じ股関節伸筋の大臀筋活動量に関しましては、デッドリフトよりもフロントスクワットの方が大きいとの報告もありますので注意する必要があります。

 

ヒップスラストとの比較

デッドリフトは、ヒップスラストと比較して、大腿二頭筋の活性化において明らかに優れていたが、ヒップスラストは最大の大臀筋の活性化を示した。脊柱起立筋の活性化に違いはない。(Andersen V-2018)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28151780

大腿二頭筋活動量:デッドリフト>ヒップスラスト
大臀筋活動量:ヒップスラスト>デッドリフト
脊柱起立筋活動量:デッドリフト=ヒップスラスト

ということになります。

ヘックスバー

 

ちなみに上記のヒップスラストとの比較ではヘックスバーデッドリフトも組み込まれて比較されているのですが、ヘックスバーデッドリフトは大腿二頭筋活動量はデッドリフトよりも少なく、大臀筋活動量はヒップスラストよりも少ないとのことです。あくまで動作から予想されることですが、恐らく膝伸筋活動量がデッドリフトやヒップスラストよりも大きそうにみえますので、デッドリフトとスクワットの中間的な種目なんではないかと思っています。

 

5.デッドリフトのバリュエーション

 

先程述べましたヘックスバーデッドリフトもデッドリフトのバリュエーションの一つとして考えられますが、ここで指すバリュエーションとは負荷の種類の変化(チューブやチェーンを付け加える等)、可動範囲の変化、それによって得られる効果の違いを考えることです。
2.の付随的な効果でも述べましたが、デッドリフトには「垂直ジャンプ力の向上」、「腰痛改善」のような効果がありますが、バリュエーションによって効果がどう違ってくるのでしょうか?

 

チェーン(重鎖)負荷を加えたデッドリフトとの比較

一定の抵抗を使用する場合と比較して、チェーンを含めることにより、コンセントリックの動作の終わりまでより大きな力を維持でき、ピーク力と活動電位が大幅に増加した。デッドリフトを爆発抵抗トレーニングプログラムに効果的に組み込むことができる。(Swinton PA-2011)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21993040

『爆発的筋力発揮を特徴とするスポーツ動作においては動作の開始から終わりにかけて加速し続けることが重要となる場合もあり、軽いウエイトを用いた高速のリフティングでは動作範囲の後半のほとんどが減速に使われる。』
参照パフォーマンス向上のための爆発的筋力発揮のトレーニングとは?

 

爆発抵抗トレーニングを導入するにあたって、動作後半の力発揮の低下や減速のデメリットを解消するためにチェーンやチューブなどの可変抵抗を用いて動作の最後まで最大努力のスピードを出すことが大事とのことで、股関節伸展動作の爆発的筋力発揮を高めたい場合はデッドリフトを上手く活用できるのではないでしょうか。

 

膝上デッドリフトとの比較

床の位置から生成される力が、デッドリフトおよび垂直ジャンプのパフォーマンスのためにクリーンのセカンドプルを模倣する位置(中腿もしくは膝上)から生成される力よりも重要であることを示している。(Bartolomei S-2019)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31895282

 

ジャンプ動作から予想されるイメージでは、膝上から引いた方が垂直ジャンプ力の向上を狙うことができそうですが、床位置から生まれる引く力が重要なようです。

 

バウンドデッドリフトとの比較

床でプレートをバウンドさせて推進力を得る

ポーズ(一時静止)デッドリフトと比較して足、膝、股関節での仕事が大幅に減少し、リフト初期で最大の力を発揮できない。バウンドからの運動量が失われた時の関節角度と負傷に対する脆弱性がある。(Krajewski KT-2019)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29489730

 

疲労してきて上手くバウンドできなかった時にケガのリスクが高まるのでメリットが少ないように思えます。また上でも述べた膝上からのデッドリフトとの比較でもありましたが、床の位置から生成される力が垂直ジャンプのパフォーマンスを向上のために重要であることからも、リフト初期の力発揮は大事であると考えられますので、この点でもメリットが少ないのではないでしょうか。

 

6.腰痛への影響


2.デッドリフトの付随的な効果でも述べましたが、デッドリフトは腰痛改善への効果があるのですが、個々人によってアライメント(姿勢)や関節可動域、筋力レベルが違うということと、腰痛発症のリスクを考えた上で適切な負荷を選択していかなくてはいけません。そもそも腰痛発症のリスクとは何なのか?腰痛に関しての統計レビューがありましたので紹介します。

 

側屈制限、ハムストリングス可動域制限、腰椎前弯制限は腰痛発症リスクの増加と関連する。腰部の屈曲可動域、四頭筋の柔軟性、指先から床までの距離、腰部の伸展可動域、背筋力、背筋持久力、腹筋力、脊柱起立筋断面積、および腰椎断面積は関連性が十分でない。(Sadler SG-2017)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28476110

 

腰痛発症リスクの中でも特に重要になってくるのが、

・体側屈制限
・ハムストリングスの可動域制限(柔軟性)
・腰椎前弯制限

の3つで、他の腰部可動性や大腿四頭筋の柔軟性、体幹筋力などよりもリスクの高さでは優先的な判断材料になるということです。デッドリフトを行うことで、どの腰痛発症リスクを低下することができるのか?を考えていかなければなりません。またデッドリフトを行うことがデメリットをもたらすことも十分考えられますので、それがどのような場合か理解しておく必要があります。

 

メリット

多裂筋と腰痛の関連性

低負荷運動制御トレーニングと高負荷デッドリフトの腰痛への比較。両方とも痛みのレベルを増やすことなく、多裂筋の厚さの変化に差はない。運動負荷に関係なく、小さい側の多裂筋の厚さを増やす可能性がある。現在の痛みの強さまたは痛みの強さの変化の大きさによって影響されるようにはみえない。(Berglund L-2017)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=27870804

 

腰痛の患者は、腰の両側が非対称で多裂筋のサイズが縮小している可能性があり、低負荷運動制御トレーニングがこの非対称性に影響を与える可能性があることも示されています。ただし、高負荷の運動が同じ効果をもたらすかどうかは不明であったことからの比較ということです。結果としては多裂筋の厚さの変化に差はでないので、高負荷デッドリフトを行うことが多裂筋を大きくし、腰痛を改善することができるという内容になっています。東京大学の石井教授も多裂筋が太いほど腰痛が起こりにくく、多裂筋をしっかり鍛えることが腰痛の予防につながると仰っていますので間違いないでしょう。

 

多裂筋

 

脊柱の伸展、側屈および回旋
椎間関節の保護や多くの運動において姿勢の維持や脊柱の安定化に貢献をしている

 

メリット

腰椎弯曲への影響

こちらも低負荷運動制御トレーニングと高負荷デッドリフトの腰痛への比較。腰椎弯曲が低い方は大幅に弯曲増加し、仙骨角(水平線と第1仙椎上部を通る直線のなす角度で平均30°を示す)が高い方は角度が減少したグループもあれば、変化なしのグループもあり更なる調査が必要。(Berglund L-2018)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28757287

背中が丸まった状態の腰椎に負担のかかるフォーム

 

腰椎弯曲への影響についても高負荷デッドリフトには、腰痛発症リスクの1つである「腰椎前弯制限」の改善への可能性があります。そもそも腰椎前弯制限がある状態というのは言ってしまえば「腰が丸まりやすい状態」でデッドリフトを行うと背中全体が丸まりやすいです。東京大学の石井教授の本にも、『背中が丸まった状態で50キロの負荷でも椎間板の前面には局所的に700キロ相当の力が加わるとされ、力学的強度の限界に近いストレスできわめて危険な状態』と仰られていますので、間違ったフォームを導きやすい腰椎前弯制限があるままでデッドリフトを行うのは負傷のリスクもあります。ただしデッドリフトには腰椎前弯制限の改善の可能性もありますので、正しいフォームと適切な負荷を遵守し取り組めば姿勢改善に有効に働きかけられると思います。

 

デメリット

アライメント不良状態での反復リフト動作のリスク

腰椎を回旋屈曲した状態で反復を繰り返された安全なレベルでの荷重でないリフトは安全レベルのリフトと比較して負傷のリスクが高く、LDH(腰椎椎間板ヘルニア)と椎間板の突出は後部/後外側部でより起こりうる。(Amin DB-2020)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31593056

 

 

 

 

 

つまり腰椎のアライメントが崩された状態でリフト動作を繰り返すと、回旋屈曲した反対側でせん断ひずみが増加し、ヘルニアや椎間板突出が起こりやすくなり、荷重が大きいほど負傷のリスクが高まるという内容です。後ほど述べますが、腰椎の回旋は側屈とわずかな矢状面の回旋と連動しているので、分節間の違いにより同側または反対側側屈を伴い、腰痛発症リスクの1つである体側屈制限を促しやすくなります。また上の腰椎弯曲の影響でも述べましたが、腰背中が丸まりやすい状態、すなわち腰椎屈曲状態が椎間板へ局所的なストレスを与えるので、こちらも腰痛発症リスクに十分なりえます。ですので、自身のアライメント(姿勢)がどういった状態にあるのかを把握しておくことも大事ですし、既にアライメントが崩れてしまっている場合はまずは正常の状態に戻すことが、ケガを予防しかつデッドリフトの効果を最大限引き出すことにつながります。

 

 

ここまでデッドリフトをなぜ選択するのか?という理由について考えられうるいくつかを解説してみました。効く筋肉、身体パフォーマンス向上、ケガや痛みの改善予防、姿勢への影響などなど。ここからはデッドリフトをやって腰を痛めてしまった、痛めるのが恐いのでやらない、すでに痛いという方が意外と多かったので、デッドリフトを円滑に行っていくためのコンディショニングをデッドリフトを行う上でのデメリットをふまえて考えていきたいと思います。

 

 

デッドリフトを円滑に行っていくためのコンディショニングの役割とは?

・ケガのリスクを軽減させる
・崩れたアライメントを修正する

 

上で述べた6.腰痛への影響でのデッドリフトのデメリット面の解消方法をここでは提案していきたいと思います。

 

ポイントは

・腰椎の回旋、屈曲、側屈、ならびに脊椎全体のアライメントの調整
・脊柱アライメントの崩れ(特に腰椎に着目)を助長している筋のリリースと活性化

です。

 

目で見たり触って分かるアライメントの崩れから予想される関節の変位や筋の拘縮、徒手抵抗感から分かる筋の弱体化を、コンディショニング面からアプローチしていきます。

 

腰椎の回旋、屈曲、側屈、ならびに脊椎全体のアライメントの調整

 

例えばこのような脊椎のアライメントの方に対してどのようにアプローチしていけば良いかを考えていきます。

 

変位例)
腰椎:L4-5右回旋右側屈、L2-3左回旋右側屈
胸椎:T7-8左側屈、T1-2右回旋左側屈
頸椎:C6-7右回旋
後頭骨:C0-1右側屈

 

 

背中が曲がりやすい方は屈曲した分節が脊柱に存在することも多いです。そういった場合のアプローチ方法も考えていきます。

 

変位例)
腰椎:L3-4屈曲
胸椎:T10-11屈曲、T6-7屈曲

 

変位が見つかっても、動きに制限がない場合は関節が緩い状態ですので、筋や靭帯などの軟部組織に脆弱性がある可能性があり、アライメントの崩れを助長している筋の活性化で対応していきます。ここでは動きに制限がある場合の調整になります。

 

脊椎の回旋および側屈へのアプローチ

 

・腰椎L4-5の右回旋を伴う右側屈に対しては、逆回旋と逆側屈を誘導させる

 

・腰椎L2-3の左回旋を伴う右側屈に対しては、逆回旋と逆側屈を誘導させる

 

・胸椎T7-8の左側屈に対しては、逆側屈を誘導させる

 

・胸椎T1-2の右回旋を伴う左側屈に対しては、逆回旋と逆側屈を誘導させる

 

・頸椎C6-7の右回旋に対しては、逆回旋を誘導させる

 

・後頭骨C0-1の右側屈に対しては、逆側屈を誘導させる

 

後頭骨の変位に関連してこんな報告もあります。

収縮した首の姿勢、すなわち頭部を後方に引いた状態により、腰椎の屈曲が減少し、腰椎起立筋、外腹斜筋、胸鎖乳突筋の活動が増加した。また、収縮した首の姿勢の結果、胸部脊柱および後頸の筋組織の活動が減少した。頸部と胸鎖乳突筋の活動の増加と脊椎の屈曲の減少は、頸部を引っ込めて持ち上げると脊椎の痛み/負傷のリスクを低下させる可能性がある(Hlavenka TM-2017)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28411737

 

仮に後頭骨の屈曲機能障害があった場合は、デッドリフトで起こりうる痛みや負傷のリスクを低下させる可能性のある頭部を後方に引いた姿勢が取りにくいので、後頭骨の調整は屈曲機能障害にも有効です。

 

脊椎の屈曲へのアプローチ

 

・腰椎L3-4の屈曲に対しては、伸展を誘導させる

※動画は右回旋もしている場合です

 

・胸椎T10-11の屈曲に対しては、伸展を誘導させる

 

・胸椎T6-7の屈曲に対しては、伸展を誘導させる

※動画は胸椎T5-6の屈曲に対してのアプローチです

 

ここまでのアライメント調整は、あくまで椎体レベルでの動きの制限がある場合に、正常な動きを誘導するために行っています。コンディショニングの考え方として、動きが緩和された状態で弱化している筋を活性化して正常なアライメントに近づけていくために、トレーニングが必要不可欠であるという考え方があり、自身もこの考え方を推奨しています。ですのでここからは正常なアライメントに近づけていくための筋のリリースと活性化方法を紹介していきます。

 

脊柱アライメントの崩れ(特に腰椎に着目)を助長している筋のリリースと活性化

 

腰椎に動きを与えている浅層にある筋(腹直筋や外腹斜筋)は直接圧迫やストリッピングでリリースすることができるかと思いますが、それ以外の深層に位置している脊柱起立筋や腰方形筋、下後鋸筋、大腰筋、内腹斜筋、多裂筋、回旋筋、横突間筋、棘間筋をリリースするのはなかなかに難しいと感じています。ですので上記のアライメント調整は深層の筋を伸長させリリース状態に近づけるという意味合いがあります。あくまでも数ミリの伸長ストレスが瞬間的に椎間関節にかかる程度の調整力であると捉えられるのであれば、上記のアライメント調整だけでは不十分です。6.腰痛への影響でも述べましたが、特に多裂筋は腰痛予防に効果的ですが、大腰筋の腰痛における影響や、リフト中の腰方形筋の活動をみると、大腰筋や腰方形筋のリリースや活性化が重要だと考えられます。

大腰筋や腰方形筋の優性や不調が腰椎のアライメントに影響を及ぼす可能性は十分ある

 

大腰筋と腰方形筋のリリースと活性化

 

回旋と側屈変位を引き起こしている可能性がある筋のうち、椎骨レベルの変位に関連する深層筋の多裂筋、回旋筋、横突間筋、棘間筋は上記のアライメント調整で回旋方向に強く、側屈方向は回旋に伴って間接的にリリースされたと仮定した場合、直接調整できていない側屈方向の筋のリリースが不十分であるおそれがあり、大腰筋と腰方形筋は側屈変位に強く関連する筋であることから別個にリリースと活性化を行う必要があると思われます。また大腰筋は腰椎前弯への影響も強く、腰方形筋は伸展動作にも関わってきますので、活性化が必要であると考えられます。

 

大腰筋

筋膜連鎖:虫垂を軸に、上半身-下半身、外側-内側、前部-後部
筋作用:腸腰筋と組み合わせて、大腰筋は股関節の屈曲の主要な筋で、大腰筋の片側の収縮も横方向の動きに役立ち、両側の収縮は体幹を仰臥位から持ち上げるのに役立つ。腰筋複合筋は、股関節を曲げる、股関節を外旋させる。
姿勢機能:直立姿勢では、骨盤と腰椎に作用し、脊椎を曲げ、同側の側屈、反対側に向かって回旋させる。座位では腰椎を安定させ、仰臥位または立位で大腿骨を動かす。
腰椎への作用:屈曲と伸展の動きは小さいが、圧縮力とせん断力は大きく、脊椎をS字状にし、腰仙部に大きく負担をかけながら、前弯を強制する。
歩行:歩行運動中、同側の大腰筋は、股関節屈曲の開始時およびスイング段階の後半の間に活性化する。
(Siccardi MA-2018)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK535418/

 

THOMAS' Test
股関節屈曲筋の硬さの検査
腸腰筋(腸骨筋+大腰筋)が硬いときは、大腿が少し持ち上がり、膝が大きく曲がってしまいます
左右の硬さの差もある程度の判断材料になりますので、腰椎が側屈している側の大腰筋が硬くなっていると予想されます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大腰筋のストレッチ
基本的にはセルフで股関節を伸ばしていくストレッチを行いますが、姿勢がなかなか取りづらい場合は施術者が補助をしていくこともあります
これで大腰筋などの股関節屈曲筋を中心に緩ませることができます

大腰筋を直接圧迫して緩ませる時は結腸を痛めてしまうおそれがあるので注意が必要です(Siccardi MA-2018)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK535418/

 

 

 

 

大腰筋のトレーニング
@ストレートレッグレイズ

腸骨筋、大腰筋、小中殿筋、内転筋の筋活動が有意に高い(Shiozawa H-2017)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29287785

 

 

 

 

Aプランクエクササイズ

肘-つま先でのプランクエクササイズは、サイドプランク、腿上げ、手-膝プランク、肘-膝プランクよりも大腰筋の活動が高い(Imai A-2016)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=27819192

 

質の高い研究の大部分で股関節筋の萎縮が腰痛に明らかになっているという統計もあります。(Pourahmadi M-2019)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31475359

 

大腰筋、臀筋、梨状筋は腰痛にやや影響ありとのことからも大腰筋へのアプローチは、腰椎のアライメントだけでなく、腰痛予防にも役立ちそうです。

 

腰方形筋

 

 

腰椎を側屈側に動かし、骨盤を持ち上げる役割のある筋
伸展動作も積極的に働きます

70sのバーベルリフト動作中最大74%活性化する(McGill S-1996)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=11415616

 

腰方形筋のストレッチ
基本的には側屈方向(とやや屈曲方向)に上体を曲げていくと伸びていきますが、肩が上がりにくい場合は施術者が補助をしていくこともあります
これで体幹を側屈させる筋を中心に緩ませることができます

 

 

 

 

 

 

腰方形筋のトレーニング
サイドプランク

サイドプランク中は他の筋肉よりも活性化される
腸腰筋よりも脊椎の安定作用が優れているためサイドプランクを選択することは賢明
(McGill S-1996)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=11415616

 

プランクエクササイズの様々なバリュエーションの中でもサイドプランク中が腰方形筋の活動が大きくなります。(Imai A-2016)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=27819192

また、短足側の腰方形筋の筋持久力が低いという報告もあります。(Knutson GA-2005)
参照https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=16226625

ですので、片側エクササイズのサイドプランクは徒手抵抗感で強弱差を判断してから弱い側を重点的に行うと良いと思います。

 

 

ここまでがデッドリフトのデメリット面の解消方法として、アライメント調整と筋のリリースと活性化の両方からアプローチした考え方を述べてきました。最終的にアライメント(姿勢)を決めるのは自身の筋が全面的にバランスが取れている状態であることかと思います。ですので、バランスが崩れている状態では筋の強弱が存在し、弱い筋はトレーニングが必須であると考えています。治療家やトレーナーはあくまでも正しい道筋を伝える案内人で、全てを改善するのは本人の持っている力です。正しい道筋を知ってしっかりとトレーニングをしていきましょう。